映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベントレポート
【写真】映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント ジアド・ドゥエイリ監督、木村草太(憲法学者)

映画『判決、ふたつの希望』(原題:The Insult)

ジアド・ドゥエイリ監督来日!公開記念トークイベント

大都市好きのジアド監督、いつか本気で東京に住みたい。

第90回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、ジアド・ドゥエイリ監督の最新作『判決、ふたつの希望』が8月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次公開となる。

【画像】映画『判決、ふたつの希望』場面カット10

ふたりの男性の間に起きた些細な口論が、ある侮辱的な言動をきっかけに裁判沙汰となり、国家を揺るがす騒乱にまで発展する・・・。

クエンティン・タランティーノ監督のアシスタント・カメラマンという経歴を持つ、レバノン出身のジアド・ドゥエイリ監督自身の実体験を元に作り上げた物語は、宗派や信条の違いを超えレバノン国内で爆発的な大ヒットを記録!さらに、第90回アカデミー賞ではレバノン史上初となる外国語映画賞ノミネートの快挙を成し遂げ、第74回ヴェネチア国際映画祭では、主演のカメル・エル=バシャが最優秀男優賞を受賞。中東の小国レバノンの映画でありながら米有名映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で満足度90%の高評価を獲得(※2018年6月14日時点)するなど世界中の映画ファンから圧倒的な支持を集める話題の最新作。

【画像】映画『判決、ふたつの希望』場面カット14

8月8日(水)、日本公開に際して来日したジアド・ドゥエイリ監督と首都大学東京教授で憲法学者の木村草太氏が登壇するトークイベントが東京渋谷のユーロライブで開催された。

トークイベントレポート

もうじき台風が東京にやってくるというのに、2時間も前から人が並んでいる。熱気にあふれた会場、ユーロライブ。映画は観たいし、監督にも会いたい! MCが登壇者の名前を呼ぶと割れんばかりの拍手の中、笑顔でジアド監督と憲法学者の木村氏が現れた。

【写真】映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント ジアド・ドゥエイリ監督、木村草太(憲法学者)

ジアド監督が「こんばんは、皆さん!前回の来日はナント19年前。自分の初監督をした作品を携えての事でした。数週間前に日本の配給会社のロングライドさんからオファーをいただき、素晴らしい時間を過ごしています。皆さまが表現するリスペクトの精神に感動しています。明日のフライトで帰る予定ですが、台風が直撃して滞在が延期されればいいのに、と思っているところです」とユーモアたっぷりに挨拶。憲法学者の木村さんが、「今日は、ありがとうございます。おそらく台風もジアド監督に会いたくて東京に向かっているのだと思います(笑)」と続いた。会場は一気に和やかな雰囲気に包まれトークショーが始まった。

MCが久しぶりの東京の印象を聞くとジアド監督は「グーグルに世界で一番大きな都市はどこと尋ねたら、東京だよと答えました。こうして東京に滞在でき、本当に幸せです。現在の拠点はパリですが、本気で東京に住むことを考えるほど心が惹かれます。まさしく僕好みの生活ができそうです」と答えた。MCが木村に映画の印象を聞いた。「レバノンは宗教や人種などの複雑な歴史があり、さらに内戦もある国。そういう国を舞台に社会全体の希望を描いてあるところが印象的でした。日本も教えられるところが多い映画です」と言い切ってみせた。

ジアド監督が木村の感想を受けて、レバノンの状況を説明。「現在のレバノンは宗教的な過去の問題が表面化していて、暗黒時代に突入しています。やるべき事が山積み。衛生面もそうですが、暴力的でもあるんです。しばらく住んでいましたが、2012年にパリに拠点を移動しました。医療も学校も無料で、快適な街です。でもレバノンに必要とされていると思うから、強い思い入れがあるから、2016年にベイルートに戻って映画を作っているんです。木村さんが、映像から「希望」を感じたと言いました。映像作家は、社会の変化は起こせないけど貢献はできると思います」と強く真剣な口調で訴えた。会場はシーンとなり、遠い国レバノンの状況に真剣に耳を傾けていた。

【写真】映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント ジアド・ドゥエイリ監督、木村草太(憲法学者)

この映画を撮ったきっかけ、撮影は本物の裁判所で

MCが、この映画製作のきっかけを尋ねると「自分の実体験がベースになっています。映画が始まって3分から5分くらいのところで、サボテンに水をかけた時にある事が起きます。それが発端となり、映画の大半を占める法廷での裁判シーンへと続くのです。法廷が夏休みの時期を狙い本物の裁判所で撮影をしました。内装は撮影のために少し手を加え、木製のパネルを貼って見た目をよくしました。後、反響する音を吸収させるためにね。休暇から戻られた裁判所の方が、とても気に入り現在もそのままです。僕の母親が弁護士で裁判所に行った時にセルフィ―を送ってくれました(笑)」と、細やかに説明をしてくれた。

【写真】映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント ジアド・ドゥエイリ監督

争う男性たちの間、セクシーで強く美しい女性の判事、カッコイイでしょ!

木村がジアド監督に「女性の裁判官はどなたかモデルがいますか?日本では女性の裁判官は稀なんですよ」と質問をぶつけた。「脚本を作っている時、実際の裁判所にリサーチに出かけました。たまたま法廷の中に檻があったので作品にも取り入れました。ドラッグの密売人の裁判の傍聴で、判事さんが女性だったんですね。そこでインスピレーションを! 女性の判事、セクシーで強く美しい!いいなって閃きました!副判事は二人いて、そちらは男性にしましたよ(笑)。レバノンの女性をもっとポジティブな形で表現したいです。実際にレバノンには女性の判事が数人いますしね」と得意げな表情で答えた。

【写真】映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント ジアド・ドゥエイリ監督、木村草太(憲法学者)

遠い国レバノンの出来事だけどテーマは普遍性に満ちている

MCからひと言メッセージを求められると木村は「日本から遠い国レバノンが舞台だけど、日本人にとっても大事なテーマを扱っているので、心に響くでしょう」と。監督は自信たっぷりに「映画を是非楽しんでください」とひと言残した。大きな拍手を浴びながらジアド監督と木村氏は降壇。期待に満ちたトークイベントが無事に終了した。

[スチール撮影&記者: 花岡 薫]

イベント情報

<映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント>

■開催日: 2018年8月8日(水)
■会場: ユーロライブ 
■登壇者: ジアド・ドゥエイリ監督、木村草太(憲法学者)

【写真】映画『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント

登壇者プロフィール

ジアド・ドゥエイリ (Ziad Doueiri)

内戦下のレバノンで育ち、20歳で渡米、タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(1991年)や『パルプ・フィクション』(1994年)などにアシスタント・カメラマンとして参加。カンヌ国際映画祭監督週間上映作『西ベイルート』(1998年)で監督デビューを果たし、長編3作目となる前作『The Attack』(2012年/未)ではサン・セバスチャン国際映画祭審査員特別賞受賞ほか世界中で高い評価を受けるも、イスラエルで撮影を行ったため政府によりレバノン国内での上映が禁止されるなど、毎回センセーショナルな話題作を精力的に発表し、国際的に高く評価されている。

木村 草太 (Souta Kimura)

1980年生まれ。東京大学法学部卒業後、同助手を経て現在、首都大学東京法学系教授。専攻は憲法学。著書に「キヨミズ准教授の法学入門」「憲法の創造力」「テレビが伝えない憲法の話」「集団的自衛権はなぜ違憲なのか」「憲法という希望」「憲法の急所 第2版」「木村草太の憲法の新手」などがある。

映画『判決、ふたつの希望』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『判決、ふたつの希望』ポスタービジュアル

《ストーリー》

レバノンの首都ベイルート。その一角で住宅の補修作業を行っていたパレスチナ人のヤーセルと、キリスト教徒のレバノン人男性トニーが、アパートのバルコニーからの水漏れをめぐって諍いを起こす。このとき両者の間に起きたある侮辱的な言動をきっかけに対立は法廷へ持ち込まれる。やがて両者の弁護士が激烈な論戦を繰り広げるなか、この裁判に飛びついたメディアが両陣営の衝突を大々的に報じたことから裁判は巨大な政治問題となり、“ささいな口論”から始まった小さな事件はレバノン全土を震撼させる騒乱へと発展していくのだった……。?

 
第90回 アカデミー賞 外国語映画賞ノミネート
第74回 ヴェネチア国際映画祭 最優秀男優賞受賞
 
原題: The Insult
 
出演: アデル・カラム、カメル・エル=バシャ
 
監督・脚本: ジアド・ドゥエイリ
脚本: ジョエル・トゥーマ
日本語字幕: 寺尾次郎
字幕監修: 佐野光子
提供: バップ、アスミック・エース、ロングライド
配給: ロングライド
2017年 / レバノン・フランス / アラビア語 / 113分 / シネマスコープ / カラー / 5.1ch /
© 2017 TESSALIT PRODUCTIONS–ROUGE INTERNATIONAL–EZEKIEL FILMS–SCOPE PICTURES–DOURI FILMS
 
2018年8月31日(金)
TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開!
 
映画公式サイト
 
公式facebook@movie.longride
公式Twitter: @longride_movie 
公式Instagramlongride_movie
 

この記事の著者

花岡 薫ライター

自分にとって殿堂入りのスターは、アラン・ドロン。思い起こせば子どもの頃から、愛読書は「スクリーン」(SCREEN)と「ロードショー」(ROADSHOW)だった。朝から3本立てを鑑賞し、英語のリスニング対策も映画(洋画)から。お腹が空くまで家には帰らなかったあの日々が懐かしい。
今も変わらず洋画が大好きで、リチャード・ギア、ロブ・ロウ、ブラッド・ピットとイケメン王道まっしぐらな性格も変わらず。目下の妄想相手はアーミー・ハマー。カッコいい俳優さんたちが、人生の好不調に耐えて充実した50代を迎えられる姿を、陰ながら応援をしていきたい。

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