新宿ピカデリー9周年記念「息もできない」特別上映 ヤン・イクチュン×東出昌大トークイベントレポート

【写真】ヤン・イクチュン × 東出昌大

新宿ピカデリー 9周年記念!
映画『息もできない』特別上映
ヤン・イクチュン × 東出昌大 トークイベント

世界が泣き、世界が震えたあの最高傑作を再び!

2008年に製作され、国際映画祭や映画賞で25以上もの賞に輝いたヤン・イクチュン監督の衝撃的なデビュー作『息もできない』(原題:똥파리/英題:BREATHLESS)。第10回東京フィルメックスでは史上初!最優秀作品賞&観客賞のダブル受賞も果たしている。

日本でも、2010年に劇場公開されて、キネマ旬報・外国映画ベスト第1位となり、アンコールロードショーも決定した作品である。

今回、新宿ピカデリーの9周年を記念して、初日の上映直後に製作・監督・脚本・編集・主演のヤン・イクチュンと『息もできない』の大ファンという俳優の東出昌大によるクロストークイベントが開催された。

トークイベントレポート

映画の余韻がさめない中、「観にきてくれてありがとうございます。」と、『息もできない』のサンフンを演じたとは到底想像のつかないやわらかな物腰のヤン・イクチュン監督は、「これを撮影したのが2007年だったのですが、10年歳をとりました。スミマセン(笑)」とまさに観終わったばかりの観客の心をほぐして、トークショーが始まった。

東出昌大も、台風前夜に「外は足元が悪い中、わざわざ足を運んでくださいましてありがとうございました。素晴らしい映画を観た後なので、みなさん余韻にひたりたいと思うのですけれども、僕もヤン監督とお会いできる機会がなかなかないので、今日はいちファンとして、話を掘りさげればと思います。」とトークショーへの意気込みを語った。

【写真】ヤン・イクチュン × 東出昌大

「今日、はじめて『息もできない』をご覧になった方がいらっしゃいましたら手を挙げてください。」という東出の声かけに、会場を埋め尽くす観客の約1/3が手を挙げ、それを確認したヤン監督は、「じゃあ、もう1回再公開しても良いですね。」と笑っていた。

英雄を見つめるような眼差しでヤン監督を見つめる映画少年のような東出は、この映画の全カット、全シーンに魅了されたといい、「いちばん好きな韓国映画です!」とヤン監督に告白。「だから、しゃべりに来たんですけれども、しゃべれなくなってしまって。」と愛を告げた中学生のようなしどろもどろさで会場の空気を和らげていた。

資金を集めて、監督のみならず、脚本や主演もこなしたヤン監督に「想像がおよばないです!」という東出からは、ヤン監督と会えた喜びと、『息もできない』への熱意が伝わってくる。

【写真】東出昌大

ヤン監督も、「本当に感謝しています。心からありがたいです。この映画のシナリオを書いたのが2006年のことになるのですが、この映画のシナリオを書いて、撮影をして、演出もしたというのは、今自分にとっては、夢のような気がしていたのです。あまり現実感がなかったのですが、今日、この会場に来て、東出さんと観客のみなさんにお会いして、やっと現実感がわいてきました。」と感謝の気持ちを伝えた。

今回ヤン監督は、東出に会う前に、俳優や監督にとっては、序盤や初期の頃の作品がとても大事だということから、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)を観て、東出の演技をするときに何かを表現しようというのではなく、無表情な中にもすごく重みのある演技が印象的だったと東出に伝え、そして、あと10センチ身長が高ければ、東出みたいに格好良くできるのに、自分の場合は本当に努力しなければならないと笑顔で東出を持ち上げた。

東出の「この脚本は、どうやって書いたのですか?それまでプロットのようなものをためて書かれたのか、一気に書かれたのですか?」という質問には、「まず、真っ先に書いたのは、オープニングのシーンですね。」と丁寧にその状況を答えてくれた。蛍光灯を壊したり、男に殴られているところを助けた女性に唾を吐いたりする出だしの暴力シーンだ。なんと、友人の製作している短編映画に出演するために日本の福岡へ行って、空き時間に友人の住む街を歩いていたとき、ある人工湖で釣りをしているおじいさんがいて、周りに鶴が飛んでいるとても平和な光景の中で、あの衝撃的なシーンを書いたというのだ。しかも、「どうしてあのような暴力的なシーンが書けたのか自分でも分からない。」というヤン監督。

【写真】ヤン・イクチュン

その後、韓国のインディーズ映画の紹介番組の補助MCや演技を教える講師の仕事などが全て面倒に感じて、シナリオを書くことを辞める理由にしたという。当初は、辞めるための偽りの理由であったのが、実際に辞めてみると、このシナリオがヤン監督の心の中にスッと入っていったという。

そこから、何を書こうかと思い、オープニングシーンを膨らませて、韓国の梨花女子大学の校庭に入り込んでは一行書き、また次に行って書き、半分くらいのシーンを書いてから間をおいて書くこともして、二ヶ月半かけて仕上げたそうだ。書き方も、いくつかのソースを集めたり、色々なシーンを積み重ねるやり方ではなく、「私が実際に経験したり、目で見たりしたことを書き連ねていったということです。僕が幼かったころは全斗煥(チョン・ドゥファン)や盧泰愚(ノ・テウ)といった非常に暴力的な大統領がいた時代だったんですけど、その当時の暴力というのは家族にまで影響を及ぼして、そういった暴力によって影響を受けた社会が存在していたんですね。私としては非常にもどかしい状況に囲まれていて、無意識のうちにそれを何とか解消したいと思っていました。それが耐え切れないような状況になっていたわけなんですね。それ以前の演技では到底それを開放することができなくて、何か他の方法でこのもどかしさを解消したいと思っていましたので、それがシナリオとなって、演出となってこの作品となって解消することとなりました。」という当時の胸のうちを語ってくれた。

全ての出演者が真に迫る芝居をしていることから、東出から、皆がどこかで共通のメソッドのようなものを勉強して現場に挑んでいるのか?基礎訓練をしている前提があって、キャスティングされているのか?などの俳優目線での質問がされた。そこで、ヨニ役のキム・コッピのことを思い出し笑いをしながら、正直に当時のキャスティングの事情を話してくれた。

【写真】ヤン・イクチュン × 東出昌大

ヤン監督は、ある女優を想定して、シナリオを書いたが、実際に撮影交渉をしたときに、その女優のマネジメント会社からプロデューサーが来て、お金のなかったヤン監督の出演料では、難しいと断られたという。500万ウォン(50万円)の提示価格のところ、300万ウォン(30万円)しか出せず、差額の200万ウォン(20万円)のために、キム・コッピに白羽の矢が当たった。その二年前にキム・コッピが出演した短編映画を観たヤン監督は、「タイトルは、『露後(原題)』というタイトルのものだったんですが、少女の生理にまつわる話で、12分か13分くらいのもので、どこかの映画祭で観た記憶があるんですけども。12分か13分、彼女は全くセリフがないんですけど、その一本の映画で、ものすごい強い印象を与えたてくれたんですね。先ほどお話ししたようにそういう経緯がありまして、なかなか他の女優さんを見つけられなかった時に、その短編映画のことを思い出しまして、会うことになったんですけども、3時間くらいあれこれお話をしながら、遊びながら過ごしたのを覚えています。」と内訳を話した。

また、ヤン監督がキャスティングをする際には、10年くらいの仕事関係の中で出会った人や一緒に作品をしたことがある人、そして俳優として無名の頃に出会ったことがある人の中から選んでキャスティングをしたという。

【写真】ヤン・イクチュン

役者の感じる心を大切にする定評のあるヤン監督の演出については、「私は、演技をしている時、演出をしている時もそうなんですけど、現場でリハーサルをしたり、台本の読み合わせをして練習をするというのがあまり好きではないんですね。私が好きなのは最初のテイクです。最初のテイクというのは、初めて経験するというようなそんな意味合いがある気がして、とても好きなので事前に台本を読み込んだりとか、シナリオを話すことはあまり好きではなくて、そういうことに慣れてもいないんですね。俳優として演技をする時にもリハーサルをすることはあまり好きではないので、リハーサル無しですぐに本番に入るタチなんですね。『息もできない』を撮影していた時には、撮影が始まってから3、4回くらいまでは俳優さんたちから抗議がたくさん来ました。どういう風に撮影するか話してくれないと困るではないかというような抗議だったんです。」と話し、その抗議も、「映画の中で僕といつも一緒に登場していた滑稽なユニークな役どころのファンギュという役を演じていた俳優さんが三回目くらいの撮影をする時に韓国語で씨팔(シーパル)という畜生とか悪い言葉なんですけど、その言葉を発して、どういうシーンを撮るか言ってくれないとわからないじゃないか!と声を荒げていました。」と撮影秘話を明かした。

【写真】東出昌大

そんな状況で、東出がヤン監督の演出を受けることになったらどうするか?というMCからの質問に、「いや、うれしいし、楽しみです。そんな機会が与えられるのならば。日本の監督さんも韓国の監督さんも、さまざまな現場の作り方っていうのがあると思うんですけれども、日本でもそういう方はいらっしゃいますし、役者としては、うれしいっていう方が多いと思います。」とうれしそうに答えていた。

どんな感じで共演したいか?という問いにヤン監督は、「もし実現するなら、『ロード・オブ・ザ・リング』のような感じで、CGで東出さんを(小人の)ホビットにして、私はガンダルフで出演できたらいいですね。」と会場を笑いでわかしていた。

あっという間のトークショーも終わりの時間となり、「嘘だ!俺だって、まだまだ。嘘〜!?」と叫ぶ東出の最後の一言では、「もう最後で申し訳ないんですけど、ヤン・イクチュンは、これから日本にも来られますし、『あゝ、荒野』の公開も控えていますし、それ以前にも『かぞくのくに』っていう映画にも出ていたり、韓国でのご活躍はもちろんのことながら日本と韓国の橋渡しをしてくれる方でもあると思うんです。日本映画を卑下するっていうことではなく、ただ韓国映画って普段ご覧にならないって方がいたらぜひご覧になっていただきたいんですけども、韓国映画も台湾映画もアジア映画なんですけど、ものすごい素晴らしいものが多いんです。合作することに意義があるということじゃなくて、作品が素晴らしければそれに越したことはないんですけど、国境をまたいで、日本海をまたいでだったり、いろいろな境界、政治的なことをまたいで、お互いに手を取り合って芸術分野でがんばれるのは素晴らしいことだと思う。僕らが観ていた映画っていうのは、固執したイデオロギーだったり、利己主義に固執しているんじゃなくて、みんな手を取り合おうよってドラマを観てきたと思うんです。だから僕らもドラマを作る側の人間なので、映画を作る側の人間なので、こっちは一方的に尊敬していますけど、こっちもこっちで尊敬される役者、クリエイターに成れればなと島国で思う次第です。」とトークショーをしめた。

【写真】ヤン・イクチュン × 東出昌大

ヤン監督は、この秋に公開予定の岸善幸監督、寺山修司原作の『あゝ、荒野』が控えており、「『あゝ、荒野』は去年撮影した映画なんですけど、当時は今現在の体重よりも10キロやせていたんですね。今はこんな風にお腹が出てしまってるんですけども、去年撮影した時は運動もがんばりましたし、ボクシングもしましたし、菅田さんと熾烈な撮影を乗り切ったわけなんですけど、この作品が観客の皆さんにどんなふうに伝わってもらえるのかとても気になっているところです。公開まであと二カ月くらいでしょうか。いい形で紹介していただけたらなと思っています。原作も非常に重要な作品であり、立派な作品でありますのでそんな風に紹介していただけたらいいなと思っています。」と最新作を紹介した。

[撮影: Cinema Art Online UK / 記者: おくの ゆか]

イベント情報

<映画『息もできない』特別上映トークイベント >

日時: 2017年8月8日(土)
場所: 新宿ピカデリー スクリーン6
登壇者: 東出昌大、ヤン・イクチュン

【写真】ヤン・イクチュン × 東出昌大

映画作品情報

映画「息もできない」(原題:BREATHLESS)

《ストーリー》

愛を知らない男と、愛を夢見た女子高生が偶然出会い。最低最悪の出会いから、運命が動きはじめる。父親への怒りと憎しみを抱いて、社会の底辺で生きる取り立て屋の男サンフンと、傷ついた心を隠した勝気な女子高校生ヨニ。歳は離れているものの、互いに理由なく惹かれていく。ある日、漢江の岸辺で傷ついた二人の魂は結びつく。それは、今まで見えなかった明日へのきっかけになるはずだった。しかし、彼らの思いをよそに運命の歯車が軋みを立てて動きはじめる。

原題: 똥파리
邦題: 息もできない
英題: Breathless
監督/脚本: ヤン・イクチュン
編集: イ・ヨンジュン、ヤン・イクチュン
撮影: ユン・チョンホ 美術: ホン・ジ
録音: ヤン・ヒョンチョル  製作: ヤン・イクチュン
音楽: インビジブル・フィッシュ
出演: ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン
2008年 / 韓国映画 / 130分 / 1:1.85 / ドルビーSR / レイティング:R-15
提供: スターサンズ 配給: ビターズ・エンド、スターサンズ
© 2008 MOLE FILM ALL Rights Reserved
 

映画公式サイト
新宿ピカデリー: http://www.smt-cinema.com/site/shinjuku/
特設サイト: http://kouya-film.jp/event/

この記事の著者

おくの ゆか

おくの ゆかライター

映画好きの父親の影響で10代のうちに日本映画の名作のほとんどを観る。
子どものときに観た『砂の器』の衝撃的な感動を超える映像美に出会うために、今も映画を観続けている。

★好きな映画
『砂の器』[監督: 野村芳太郎 製作: 1974年]
『転校生』[監督: 大林宣彦 製作: 1982年]
『風の谷のナウシカ』[監督: 宮崎駿 制作:1984年]
『硫黄島からの手紙』(Letters from Iwo Jima) [監督: クリント・イーストウッド 製作: 2006年]

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