第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&Aレポート

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督、ヤニブ・ビトン)

第31回 東京国際映画祭(TIFF) 
コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A

第31回東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門に選出された映画『テルアビブ・オン・ファイア』(原題:Tel Aviv on Fire)のQ&Aが、10月26日(金)にEX THEATER ROPPONGIで行われ、来日した監督のサメフ・ゾアビと俳優のヤニブ・ビトンが登壇した。司会進行はコンペティション部門プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦氏。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督、ヤニブ・ビトン、矢田部吉彦プログラミングディレクター)

コメディタッチで敢えて伝えたパレスチナとイスラエルの今

S.ゾアビ: 皆さま、お越しいただきありがとうございます。日本に来たのは、初めてです。6年間費やした作品をご覧いただけることに本当にワクワクしています。いろいろな国の国際映画祭で上映されることを大変嬉しく思っております。

Y.ビトン: 客席で皆さまと一緒に座って観ました。日本人のお客さまは、映画のパレスチナ人とイスラエル人の葛藤や小さなニュアンスをどれくらい理解してもらえるかなと思っていました。この映画のコメディをクスクスと笑っていただけ、たいへん嬉しく思いました。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督、ヤニブ・ビトン)

コメディやメロドラマだから言えないことが言える

―― 自己紹介をしてもらえますか?

S.ゾアビ: 私はナザレス(イスラエルの都市)の近くの村で生まれました。パレスチナ人の家族に生まれたので基本的にはパレスチナ人。でもイスラエルで生まれたので、イスラエルのパスポートも持っています。テルアビブ(イスラエルの都市)で教育を受け、ニューヨークのコロンビア大学で映画を学びました。この映画が、2本目の劇場用映画です。前作も監督と脚本を務めました。パレスチナ人とイスラエル人の政治的な葛藤をいつもコメディで描いています。深刻な問題を真面目に描くと、深刻になりすぎるからです。コメディで描く方が、より自由に描ける感覚があるのです。

―― コメディタッチにしようとした着想の背景は何ですか?

S.ゾアビ: そもそも僕は、ソープオペラ[*1]というかメロドラマ[*2]が好きです。エジプトで製作された連続ドラマのソープオペラを観ながら育ちました。家の中にはテレビが一台しかなく、母親が必ずリモートコントロールを握っていました。映画好きな方にとって、メロドラマは不自然なセリフ回しだと思われるでしょう。ですがメロドラマ好きな人にとって、これほど現実的な物語や台詞はないのです。今回のような題材を描くには、普通は言えない事をメロドラマの台詞として言えるので、コメディを加えながら伝える面白い手法でやってみたいと思いました。

―― 脚本を読んだときヤニブ・ビトンさんはどう思いましたか?

Y.ビトン: 我々を囲んでいる深刻な状況を見事に描いてくれたと思いました。政治的な部分が、僕自身のイデオロギーに沿っているかどうかを判断し出演を決めました。俳優としては、芸術性の面でこれほど面白いキャラクターはないと思いました。あの検問所の署長は、二面性があり、政治とは関係なく楽しめる役だと思いました。とにかく自分の奥さんを楽しませたい、喜ばせたいと必死に頑張っている役ですから。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (ヤニブ・ビトン)

イスラエル史上初「パレスチナ人制作のメロドラマ」の意義

―― 現実にパレスチナ人だけが集まり、ヘブライ語(イスラエルの言語)もわからないような状況で昼メロを作っているのですか?

S.ゾアビ: 実は真逆が往行しています。つまりイスラエル人がアラブ語を変な訛でしゃべり、テレビで放映しています。それを観てきた僕はずっと違和感を感じていました。ですから僕の映画では、その逆のイスラエル史上初のパレスチナ人による昼メロという設定にしました。

―― ドラマのラストの展開を主人公(パレスチナ人の脚本家)は非常に悩みます。監督の思い出が込められているのですか?

S.ゾアビ: 僕としては、新しい世代にある種の声を提供したいという気持ちがありました。この映画の中に今までの問題が全て描かれています。軍の統制、自爆テロの話、また高い壁[*3]も出てきました。我々はどこへ行くべきか、この映画の中で提示したつもりです。だけどその答えは、3本目の映画を作らないと見いだせないのかもしれません。

Y.ビトン: ドラマの結婚式は、解決策でもエンディングでもないと思います。どちらかというと第二のオスロ合意[*4]だと思っています。

S.ゾアビ: オスロでの締結は本当に失われていて、占領もどんどん続いています。今の現実自体が、昼メロの非現実的な世界のような気がします。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督)

「フムス」で描いたイスラエル人の矛盾

―― なぜイスラエル人のアッシさんは、あんなに本物のフムスを食べたがるのですか?何か背景がありますか?

S.ゾアビ: フムス[*5]は、元々パレスチナ人の郷土料理なんです。イスラエル人がパレスチナにやって来た時にフムスを知り、美味しいので食べるようになりました。子どもの時からずっと食べていたので、フムスをレストランで食べるなんて考えられないです。でもイスラエル人は喜んでレストランにフムスを食べに行こうよと誘うんですね。僕としては、本来イスラエル人はパレスチナの文化を否定しているはずなのに、なんでそんなにフムスを好きなんだろうと思っています。心の中ではフムスだけではなく、いろんなパレスチナの文化に憧れや興味を持っているのかもしれない、とも思っています。その代表として僕はフムスを描きました。アッシがあれだけ本当のアラブのフムスを食べたいというそのこだわりを面白おかしく描いたのです。

Y.ビトン: 僕の周りでも同じです。イスラエル人はフムスに対し憧れを持っています。この映画を観てもらった時、アッシが「フムスを持って来い」と言ったら(皆さんは)大笑いしましたよね。ひとつのクリシエ(決まり文句)になっています。1週間に2時間しか空いていないような店で「スゴク特別なフムスだよ」と言って渡して、しかもそれは実際は缶のフムスだった。そんな味もわからなかったというのは皮肉でもありまして、そういった場面でも笑いが出ていました。

S.ゾアビ: この映画は実際に笑えるところがたくさんあります。僕にとってはとても個人的な映画なんです。フムスひとつをとっても僕なりの思い出がありますし、脚本を書いていても、自己表現をしていても常に政治の介入というものがあるわけなんです。それに対する葛藤や自分の中のジレンマをこの映画に込めたつもりです。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督、ヤニブ・ビトン)

痛くなるほどくすぐって、現実を伝えたい

―― パレスチナ人をいじめているように見える作品を撮って、イスラエル政府からストップはかからないのですか?

S.ゾアビ: 1948年にイスラエルが建国された時、僕のパレスチナの家族はイスラエルの土地に住んでいました。パレスチナの出生人口の25%がそうです。いわゆる大きな闘争が起きている場所は、西の方でガザ地区[*6]です。1967年からずっと占領されています。僕の家族はパレスチナ人でありながら、ヘブライ語もしゃべるし、イスラエルのパスポートも持っています。映画のサラムと同じように検問所を通り行き来もできます。それが我々の政治的な現実。さて、今の新しい世代でも問題が起きています。パレスチナ人がイスラエル人にいじめられる事は現実としてあります。毎日のようにFacebookとかYouTube動画にアップされています。だけどそれは、秘密ではないのです。イスラエル人も知っています。だけど現実としてそれに対し何かをする事がないのです。オスロ条約と同じことです。僕としてはこの映画を通し相手の顔を殴るのではなく、くすぐりながら、今の現実を皆さんにわかって欲しいと思いました。この映画の批評がイスラエルの大手の新聞に掲載されました。「新しい世代が、初めてお互いを認め合い楽しめる、そういった映画が生まれた」と。なぜかというと、「この映画が現実とひとつ距離を置いて現実を描いているから」、という批評を受けたのです。僕としては、叩く殴るではなくて、痛くなるほどくすぐりながら皆さんに現実を伝えたいと思ったわけなんです。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督)

[*1] ソープオペラ(Soap Opera): テレビやラジオで放送される昼の主婦層をターゲットとし、恋愛や家族をテーマにした通俗的な連続メロドラマ。文字通り歌劇でもある。アメリカのラジオ放送で石鹸会社の提供による番組であったことによる通称。

[*2] メロドラマ(melodorama): 恋愛をテーマとした、感傷的、通俗的な演劇のひとつのジャンル。19世紀イギリスを中心にヨーロッパやアメリカで流行。アメリカのソープオペラや日本語の昼ドラとほぼ同じ意味。

[*3] 高い壁: イスラエル西岸地区の分離壁(アパルトヘイト・ウォール=人種隔離の壁)と呼ばれるもの。パレスチナ人は壁の向こう側に行くには許可証が必要。イスラエル政府は、パレスチナの自爆テロから市民を守るためと説明している。2005年、イギリスの「芸術テロリスト」と呼ばれるバンクシーが壁画を残している。

[*4] オスロ合意(Oslo Accords): 敵対していたイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が1993年9月13日、お互いを認めて和平の話し合いを始めた歴史的な合意(暫定自治宣言)のこと。2006年7月の、イスラエルによるガザ地区・レバノンへの侵攻により、事実上崩壊したとアラブ連盟では見做されている。イスラエル寄りの立場が鮮明なトランプ政権の誕生で、交渉再開の糸口さえ見えない。

[*5] フムス(アラビア語:حُمُّص ḥummuṣ): 伝統的なアラブ料理。パレスチナ、レバノン、ヨルダン、シリア、イラク、トルコ、イスラエルなど中東の広い地域で食べられている。ゆでたヒヨコ豆に、ニンニク、練りごま、オリーブオイル、レモン汁をペースト状にし塩、胡椒で味つけしたもの。

[*6] ガザ地区: パレスチナ国(パレスチナ自治政府)の行政区画。中心都市はガザ。現在イスラエルに軍事封鎖され地域全体が高い壁に覆われている。「天井のない監獄」「世界最大の監獄」と呼ばれることもある。

[スチール撮影&記者: 花岡 薫]
 
 

イベント情報

第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
<映画『テルアビブ・オン・ファイア』上映後 Q&A>

■開催日: 2018年10月27日(土)
■会場: EX THEATER ROPPONGI
■登壇者: サメフ・ゾアビ(監督/脚本)、ヤニブ・ビトン(俳優)
■MC: 矢田部吉彦(コンペティション部門、日本映画スプラッシュ部門 プログラミング・ディレクター)

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『テルアビブ・オン・ファイア』Q&A (サメフ・ゾアビ監督、ヤニブ・ビトン)

第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『テルアビブ・オン・ファイア』記者会見

映画作品情報

【画像】映画『テルアビブ・オン・ファイア』メインカット

第31回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 出品作品
 
原題: Tel Aviv on Fire
 
監督: サメフ・ゾアビ
 
キャスト: カイス・ナーシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン
 
2018年 / ルクセンブルク、フランス、イスラエル、ベルギー / アラビア語、ヘブライ語、英語 / カラー / 97分
 
Ⓒ Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions
 
映画公式サイト

IMDb: www.imdb.com/title/tt5791098/

この記事の著者

花岡 薫

花岡 薫ライター

自分にとって殿堂入りのスターは、アラン・ドロン。思い起こせば子どもの頃から、愛読書は「スクリーン」(SCREEN)と「ロードショー」(ROADSHOW)だった。朝から3本立てを鑑賞し、英語のリスニング対策も映画(洋画)から。お腹が空くまで家には帰らなかったあの日々が懐かしい。
今も変わらず洋画が大好きで、リチャード・ギア、ロブ・ロウ、ブラッド・ピットとイケメン王道まっしぐらな性格も変わらず。目下の妄想相手はアーミー・ハマー。カッコいい俳優さんたちが、人生の好不調に耐えて充実した50代を迎えられる姿を、陰ながら応援をしていきたい。

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